妊活、特に体外受精(IVF)は広く使用されている生殖補助技術ですが、女性にとって精神的にも肉体的にも負担となることは、とてもよく認知されていることですよね。
体外受精が患者に及ぼす心理的影響は広範囲に、そしてかなり昔から研究されており、治療過程を通じてさまざまな感情的反応や精神的健康上の問題が生じることが明らかになっています。
健康な女性に対する医療的な介入によって、精神的な問題を誘発しているという一面が体外受精という技術にはあることを理解し、「メンタルにかかる負担も妊活の一部」と考え、対処することも治療期間には重要です。
令和の妊活にはメンタルのマネジメント知識も踏まえ、「妊活のお休みも重要な妊活」と考えることも重要です。今回は治療期間中、起こりやすいメンタルの不調と対処について考察していきます。
目次
体外受精に係るストレス-妊娠中も続くことがある
治療中のストレスと体外受精の結果
妊活を無理なく続けるために
おわりに
体外受精に係るストレス-妊娠中も続くことがある
体外受精を受ける患者さん(女性)は、特に治療前、採卵日、胚移植前後、妊娠検査前の待機期間中に、不安やうつ状態が強くなることがよくあります。
男性も治療開始前に精神的な負担を感じる傾向がありますが、当然ですが、女性のほうが影響は大きいです。治療が失敗した後は、悲しみ、憂鬱、怒りの感情が優勢になりますが、月経が来ることによって次周期の治療開始となるため、感情の処理ができずに治療が続けられる傾向になります。よって治療が長期にわたったり、連続した治療の継続は、その負担を増大させます。
また体外受精が成功した後、親は自然妊娠した親よりも妊娠中に多くのストレスを経験するという報告もあります。妊娠したことを受け入れる前に、過去の不成功の体験がトラウマになり、流産などへの不安が高まるからとされています。
治療中のストレスと体外受精の結果
不安、うつ病、効果のない対処戦略などの心理的要因は、体外受精後の妊娠率の低下と関連していることが明らかになっています。
治療が成功した女性では、採卵時の血清ノルエピネフリン(※1)およびコルチゾール(※2)値が低く、妊娠検査時のコルチゾール値も低く、卵巣刺激中の血清ノルエピネフリンおよびコルチゾール値の有意な増加が観察されたことが報告されています。
また心理的な不安スコアは、生児出生率と負の相関関係にあり、血清ノルエピネフリンおよびコルチゾール値とは正の相関関係にあることがわかっています。
体外受精中の精神的ストレスは、コルチゾールやノルエピネフリンなどのホルモンレベルの変化を伴うことが多く、これらのホルモンの変化は不安や抑うつレベルと相関しており、治療の成功に影響すると報告されています。
妊活を無理なく続けるために
支援的な社会的交流(例えばピアカウンセリングなど)と心理的介入(専門家による心理カウンセリングなど)は、体外受精を受けるカップルの精神的健康と夫婦関係に良い影響を与える可能性があります。
しかし、特に妊娠結果を待つ期間や連続不成功を経験している最中は、パートナー双方を対象としたより包括的な支援プログラムが必要であることも報告されています。
残念ながら日本ではこうした支援はまだまだ行えていないことが現状で、特にストレスを感じる期間の患者さんは個人で対処する必要が求められ、不安や抑うつ感情を深めていく可能性があります。
2章で述べた通り、ストレスに関与するホルモンの上昇で妊娠できない可能性が示唆されているため、そのストレスの軽減がとても重要になってきます。
リラクゼーショントレーニングや行動療法などのストレス軽減介入は、妊娠率を向上させることが期待できますが、一番お勧めしたいのが「治療の一時お休み」です。
少なくとも2~3周期(2~3か月)、治療をお休みして、体をデトックスしましょう。妊活で我慢していた大好きな食べ物を食べてもいいし、治療管理のためのアプリもOFF。お休み期間中は自分の好きなことに完全にコミットして、ありのままの自分でいることを許可します。
頑張っていたことから離れるのは勇気がいると思いますが「妊活のお休みも重要な妊活」と考えて、ぜひやってみてください。
またこの期間に冷静な気持ちになることで、今後の治療の進め方に関しても落ち着いて客観的に考えられるかもしれません。
患者さんにはこの瞬間にも自分の卵子が加齢していくような妄想にとらわれている方もいますが、そんなことはありません。むしろ・・・
デトックスして体中がきれいになる・・・
こんなイメージでお休み妊活を行ってみてください。
おわりに
体外受精を受ける女性は、特に治療の重要な段階で、不安やうつ状態の増加など、重大な精神的苦痛を経験することがあるということは、かなり昔からわかっていたことですが、「ではどう対応するのか」という点では、あまり対応がとられてこなかったと思います。
クリニックによってはカウンセラーさんを置いたりしていますが、心理カウンセリングになじみのない日本人で積極的に利用する患者さんは少なく、欧米の研究者の論文で書かれているような対処法は社会的に認知されていない現実があります。
体外受精の精神的負担は、治療結果を待つストレスや治療が失敗する可能性によってさらに大きくなること。
心理的変化とホルモン変化は密接に関連しており、心理的要因が体外受精の成功率に影響を与える可能性があること。
妊活を頑張ったからといって、妊娠するわけではない。(日本の体外受精の成績は少なくともここ10年間は横ばいです)
これらを踏まえ、ご自分でできるストレスマネジメントを考え、治療と向き合っていくということを提案します。
疲れたら妊活をはなれ、たっぷりと自分を労わってあげてください。
赤ちゃんが授かりにくいことは命に関わる重篤な病気ではないのに、
健康なあなたが心を病んでいくことはおかしいことです。
今ある幸せを今一度確認する意味でも、お休み妊活はポジティブなアクションの一つとして考えてみてくださいね。
※1 ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)は、副腎髄質から分泌されるホルモンの1つで、交感神経の活動を高める情報伝達物質です。肉体的や精神的なストレスを感じたときに放出され、脈拍数や血圧を上昇させて体を活動に適した状態にします。
※2 コルチゾールは、ストレスを感じると脳からの刺激を受けて分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれています。ストレスを受けると交感神経が刺激され、脈拍や血圧が上昇して脳を覚醒させ、体の緊張状態を保ちます。
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いつもブログ拝読しております😊
今回のブログを読んで、私の友達の事を思い出しました。中々授からないので「いったんやーめた」という感じでお休みをしたら、第一子を授かり無事出産していました。この時に、緊張がとれたことが良かったのかな〜と話していた事が印象的でした。(全ての人に当てはまるものではないとおもうのですが)心がリラックスすることで、身体のコンディションも整っていくのだなと思いました。