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上手な妊活医療とのかかわり方

執筆者の写真: Yuri MatsumotoYuri Matsumoto

更新日:1月5日

 2022年に不妊治療の保険適用が始まり、これまで経済的・精神的な負担の大きかったこの分野に、患者さんに関しては特に経済的な恩恵がもたらされました。

 半面、妊活における根本的な問題は変わっていないばかりか、クリニックの経営的な問題もあり、より複雑化した部分もあります。


 今回はそうした問題を抽出し、令和の新しい妊活、技術の利用の仕方について書いていきたいと思います。

不妊治療
不妊治療
 

目次

  1. 保険適用化のメリット・デメリット

  2. 自由診療での経営を考えていたクリニックにとっては減収も

  3. 妊活クリニックで提供される自由診療(技術)への考え方

  4. 令和の妊活のススメ方

  5. まとめ

 

1. 保険適用化のメリット・デメリット


【メリット】

治療費の負担軽減:

 不妊治療は非常に高額というイメージでしたよね。特に体外受精や顕微授精などの高度な治療法は経済的な負担が大きく、1回の体外受精-胚移植で90万円近くする施設も存在ました。保険適用されることで、治療費が大幅に軽減され、多くのカップルが治療を受けやすくなります。これにより、経済的理由で治療を諦めざるを得なかった人々にもチャンスが広がりましたよね。


不妊治療へのアクセス拡大:

 保険が適用されることで、不妊治療に対するアクセスが広がり、経済的に余裕がない家庭でも治療を受けることが可能になりました。これにより、子供を望む多くの人々が治療の機会を得られるようになりました。2022年の体外受精件数は54万3630件と過去最高を記録しました。


出生率の向上:

 少子化が進む多くの国では、不妊治療の保険適用が出生率の向上に寄与すると期待されています。治療を受けられる人が増えることで、結果的に生まれる子供の数が増える可能性があります。日本での不妊治療の保険適用化で、出生数が増えたかどうかは、来年以降2023年のデータが出た際に判明すると思います。


精神的な支え:

 経済的な心配が減ることで、治療を受けるカップルの精神的な負担が軽減されます。不妊治療は身体的な負担だけでなく、精神的にも大きなストレスを伴います。保険適用によって、金銭面の悩みが軽くなることで、精神的にも治療に前向きに取り組むことができるようになったかもしれません。


【デメリット】

適用範囲の制限:

 保険適用される治療法や回数に制限が設けられたことによって選択肢が狭まりました。たとえば、一定回数以上の治療が保険でカバーされない場合や、特定の治療法にしか適用されないこともあります。この場合、全ての人が公平に恩恵を受けられるわけではないということも生じてきました。


医療機関の負担増:

 保険適用によって不妊治療を受ける人が増えると、医療機関の負担が増加し、対応できるリソースが不足する可能性があります。これにより、治療待ちが長くなる、あるいは医療の質が低下するリスクも考えられます。


制度の持続可能性に対する懸念:

 不妊治療は長期にわたることが多く、そのコストも高額です。保険適用が広がると、保険財政への負担が増大し、制度の持続可能性に影響を与える可能性があります。結果として、他の医療サービスにしわ寄せが来る可能性もあります。


過剰な治療への懸念:

 保険適用により、治療費が下がることで、必要以上に治療を受けるケースが増える懸念もあります。患者が無理に治療を続けたり、医療機関が利益を優先して不必要な治療を勧めるリスクもゼロではありません。

 

2. 自由診療での経営を考えていたクリニックにとっては減収も


 自由診療では、クリニックが治療費を自由に設定できるため、治療にかかるコストや利益率を考慮して料金を決めることができました。しかし、保険診療になると、料金が国の保険制度によって定められるため、収益が減少する可能性があります。保険診療では報酬額が決まっているため、これまでよりも高い利益を得ることが難しくなります。


 また、自由診療ではクリニックが独自のサービスやパッケージを提供することが可能ですが、保険診療ではその自由度が制限されます。例えば、特別なカウンセリングや先進的な技術の利用が保険の対象外となった場合、患者さんに対してこれらを別途提案するのが難しくなるかもしれません。経営戦略の選択肢が減ることは、クリニックにとって大きなデメリットです。


 このように、保険診療の適用により、他のクリニックも同様のサービスを提供できるようになるため、競争が激しくなり、これまで自由診療で差別化していたクリニックも、保険適用後は競合他院と同じ基準で戦わなければならなくなります。

 これにより、顧客を獲得するための競争が厳しくなり、クリニックのブランド力やマーケティングがさらに重要になります。

 

3. 妊活クリニックで提供される自由診療(技術)への考え方


 近年、ゆく川の流れのごとく、不妊治療領域で新しい技術が提案されては顕著な効果も得られず、また新しい技術が登場するといったことが繰り返されています。現在、保険適用されているいくつかのオプション治療(技術)に関してもエビデンスレベルの効果は認められないものの、保険収載されたものもあります。

 ただ、これらのオプション治療は自由診療の名残り、というか長期的に慣例的に行われていたこともあり、これらを保険から排除してしまうと、体外受精そのものの方法が変わってしまうという懸念もあったと思います。


 しかし最近は、美容医療や整形外科領域で使用されている「再生医療」「若返り」といったイメージと結びつきやすい、治療の実際の効果や成功率がまだ明確でない技術を積極的に行うクリニックも散見されてきました。


 高額でありながら、効果が確立されていないため、費用対効果に疑問が投げかけられています。まだ治療の標準化が進んでおらず、同じ治療でも結果が異なることがあり、患者さんにとって予測が難しい治療になります。

 特に自由診療で提供されるため、経済的負担が大きくなることがあります。患者さんが高い費用を支払っても、効果が得られないケースがあるため、慎重な検討が必要です。


 2項の「過剰な治療への懸念」でも述べたように、保険が適用される治療回数を越えた場合、以後の治療は自由診療となり、そこで収益を増やすという経営戦略は想像にたやすいと思います。患者さんも感情的に敏感な時期であり、十分な情報を得た上で治療を選択できるよう、誤解を招くようなマーケティングは避けるべきだと私は思います。


 医療業界は世界最大級のマーケットです。


 そしてそれを購入する消費者がいるからこそ、そこに商機を見出して、企業が製品やサービスを作ってくるわけです。


 「購入する消費者」はまぎれもなく、患者さんになります。提供される技術を何も考えずに購入するのではなく、よく考え利用していく、賢明な消費者であってほしいと切に思います。

 

4. 令和の妊活のススメ方


令和時代の不妊治療では、技術が進歩しているため、従来より多くの選択肢が用意されています。賢く治療を行うためには、以下のポイントに注意することが重要です。


・信頼できる専門医を選ぶ

 不妊治療、特に体外受精などの高度な不妊治療を受ける際には、経験豊富な医師やクリニックを選ぶことが大切だと思います。実績や口コミを確認し、技術力や患者への対応がしっかりしている医療機関を選ぶことをお勧めします。


・パートナーと共に精神的・身体的なケアを

 不妊治療は身体的だけでなく、精神的にも負担がかかります。心身の健康を保つために、ストレスの軽減や健康的なライフスタイル(適度な運動、バランスの良い食事)が治療効果を高める助けになります。

 赤ちゃんが授かりにくい理由は様々ですが、技術に頼る前に、自分の心と体に目を向けることがとても重要です。また精神的なサポートのために、カウンセリングやメンタルサポートを受けることも一つの方法です。


・最新の技術を理解し、活用する

 令和時代には、前述のようにこれからも最新技術が導入されてくると思います。平成の時代は体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)や胚の凍結保存などが技術の中心であり、卵子を育てる排卵誘発も、患者さんの負担を強いるものが多かったと思います。


 新薬は自宅での自己注射を可能にし、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などの副作用も減ってきました。条件を満たせば、胚の異常を検査し、健康な胚を移植することで妊娠率を上げる方法もあります。特に体外受精に挑む際にはこうした情報にも触れ、理解を深め、パートナーとどのように治療を進めていくか、議論するのもよいでしょう。


 自分たちにあった治療法を考え、実践していく。

 

 情報化の進んだ現代では、治療に挑む患者側にも必要な姿勢だと思います。


・個別化治療を受ける

 保険適用化されたとしても、すべての患者さんに一律の治療が適しているわけではありません。自分の年齢、体質、既往歴に基づいた個別の治療プランについて医師とよく相談し、自分に合った治療法を見極めることも重要です。


・費用についてあらかじめ調べ、助成金を計画的に利用する

 不妊治療は高額になる場合がありますが、保険適用されてからも地方自治体による助成金制度が充実しています。事前に費用を確認し、助成金を最大限に活用することで、経済的負担を軽減できます。また確定申告で医療費控除を申請することもできます。


 また実際、どれくらいなら治療にかけても人生設計に支障なく済むかをあらかじめ考えるのも重要です。一度治療が始まると、保険適用になったとはいえ、数万の出費が続きます。不妊治療は人生の一つの大きな選択ではありますが、人生のすべてではありません。常に冷静に経済的な評価をするタイミングも必要でしょう。


・パートナーとのコミュニケーションを大切にする

 不妊治療はカップルにとって大きな試練となることがあります。治療方針や目標についてパートナーとよく話し合い、協力し合うことで、お互いの理解を深めることが重要です。

 女性が独りで進めるような妊活はもう終わりです。不妊の原因の半分は男性にあります。パートナーと共に進める妊活スタイルが普通になるように、コミュニケーションをとっていきましょう。


・各治療のタイミングを見極める

 年齢や健康状態を考慮し、いつ治療を開始するか、または終了するか、またはその他の技術を利用するかは大切なポイントです。特に女性の年齢が上がるほど妊娠の難易度は高まるため、早めの判断も時には必要です。ただし、無理をせず、自分たちのペースで進めることも大切です。


 これらのポイントを考慮しながら、不妊治療を計画的に進めていくことで、自分たちにあった治療の進め方が見えてくると思います。


 平成の不妊治療は「湯水のようにお金が出ていく」「出口が見えないトンネルにいるよう」「感情のジェットコースター」などと形容されて、社会的な問題を引き起こしていた部分もあります。

 もう、こうしたことは平成で十分に認知され、研究されたわけですから、令和の不妊治療は「賢く、自分たちのために使う技術」であるということを確認していきましょう。

 

5. まとめ


 不妊治療の保険適用化は、治療を受けやすくする大きなメリットをもたらしますが、適用範囲の制限や医療制度への負担、リソースの不足といったデメリットも存在します。

 総じて、保険適用は多くのカップルにとって救いとなる可能性が高いですが、患者さん側も慎重に治療の進め方を考え、賢く治療を行っていくことも重要です。


 保険診療への移行は、クリニックにとって患者数の増加や社会的な信用を得る機会になる一方で、収益の低下、治療の標準化、経営の柔軟性の低下、そして競争の激化といったデメリットが伴います。

 自由診療の強みであった独自性や柔軟性が失われることにより、クリニックの経営が変わるため、患者さん側もこれらの実情を理解したうえで、不本意で過剰な医療を受けないようにしっかりとした考えの下、生殖医療に関わっていくことも重要です


 今回はかたい話にはなりましたが、大変重要なことです。


 私も長年、現場にいる中で、精神的・経済的に疲弊しているにも関わらず、治療を止めることができないという患者さんをたくさん見てきました。

 令和になり、保険適用がされたとは言え、患者さんの負担が完全になくなるということは考えられません。医療もビジネスです。賢くこの技術や制度を利用していくことが令和の新しいスタイルだと思います。


 またこうした患者さん側の姿勢が、医療側の姿勢を変えるという効果もあると思います。


✨みんなで令和の新しい妊活スタイルを作っていきましょう✨


 


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